気になる女の子

「誰もそんな事気にしちゃいないよ」
「そうかなあ」
「あんたは格好悪いとか言って悩みも相談してくれないし、デートに誘うのはいつもオレだし」
「格好悪いじゃんだって」
「その癖勝手に人のしぐさ深読みして沈んだのごまかすのに金貰ってチンポしゃぶってさ」
「あら、あんたはタダでやったげるわよ」

男はドアを背にぴったり付ける、何も注文していないので店員が来る事は無いがたまに自分が居た部屋がわからなくなって一つ一つちらちら覗いていく奴がいるからで、女は飲み干したレモンティーに残っている溶けた氷で口をゆすいで、目の前のチャックを下ろし、残りを道で配ってた金融会社のポケットティッシュに染み込ませて、ペニスを丁寧に拭く。女はこの金融会社の名前がこんな名前なのは英語のスラングを知らなかったんじゃなく、この為に使えというアイロニーのこもった大がかりな慰めなんじゃないかと思った。よくいつも小便出てるとこ喜んで舐めるよな、せめてこれで拭いてからにしな、それくらい自分大事にしても誰にも叱られやしないよ。部屋にはさっき男が入力したベイ・シティ・ローラーズのサタデイ・ナイトが安っぽい電子音で響いていて、それに合わせて画面に表示されている歌詞に色がついていく。センス無いなって女は小さく呟きながらくわえて、男は手を伸ばしてクーラーのスイッチを入れ、カラオケ独特のタバコの煙を吸ったフィルターを通ってヤニ臭くなった冷風が部屋にたちこめる。
「誰もそこまで正当に、なんて、考えてないよ。真っすぐに、とかさ。傷つけようとか、対抗心とか、全部その場のノリで、三秒もかからないで消える。飛んでくるのは卵の殻なのに、自分でその中にセメント流し込んで。マゾヒスティックな気分も少しあるだろうし。」
女は口を放して立ち上がり、男の左頬を右手の甲で打つ。
「誰もそんなこと気にしちゃいないよ」
「そうかなあ」

セックスよりもディープ・キスで終わるほうが良い