私の窓を全部食べた人

ああ、いかにも金貰ってんだなって、嬉しそうに舐め尽くすAVの女みたいに、コロナの330ミリリットルのビンを吸う、三島さん。
なんでそんな変にエロく飲むか
「あんたを誘ってるんだったらどうする?」
じゃあとりあえず、おっぱい触らして
手を出したけど、持ってたタバコの切っ先1200度向けられて、手を挙げる。
リハーサルの時、せっかくのホワイトファルコンなのにジャリジャリに歪ましてメロコアやってた、すきーって叫んだりしてたバンドの準備中、ハウスの端に座り込み、呑めないのに飲む。
「あんたの番は?」
もう終わったよ、最初だって言ったでしょう
「あら、悪い事したわね」
さっき言ったバンドが始まるようで、SEが流れだす。ん、このメロディーは、なんだっけ、ジブリってのはわかるんだけど。
「おい、高坂!なんだっけこれ!」
オレもテンション上がってた
「あー、ああ、出ない」
直接聞いてみたら
もう、メンバー全員入場してて、スティックのカウントが鳴ってるのに、三つ目を有山が遮って「SEなんだっけ!SEなんだっけ!」って、気を使えよ。
「トトロですよ!」のシャウトが遮られたカウントの代わりで、曲が始まる。始めはその、なんだっけのつっかえがとれたテンションで二人でツイストもどき踊ってたけど、頭振りに振るような曲じゃ浮いてたから直ぐに三島さんのとこに戻った。三島さんが、何か言っている、爆音で聞こえない事を手振りで伝えると、唇を耳に寄せてきて、寄りすぎて耳に触れながら、
「オタクにはついていけない」


別に、ジブリが死ぬ程好きなわけじゃないよ、三島さんもトトロ見たことあるでしょう
「ああ、さっきの話。えらく大喜びしてたから」
ラッキー・ストライクに蝋マッチで火を点ける。三島さん、ミッシェルからロックに入ったって言ってたな、ヴォーカルのチバユウスケが同じのを吸っていた筈だ。
まあオタクっちゃオタクなんだけど
「例えば?」
たまに漫画で抜くこととか
「本物は、自分のことをそうは言わないんだって」
はぁ
「そんな感じ」
ゆっくりと、煙を吐いて上ってく煙にウィンクをして、僕に差し出す。
吸えないんだ
ちょっと不満そうに間をおいてから、やってきた有山に歩調を合わせて
「じゃあね」
また明日
「うまくなれよ、絶対良いぜお前」
ああ、ありがとう有山
「今はうんこだけどな」
うるせえ
有山はミラーとかライトとか腐るほど付いたモッズ・スクーターにまたがって、その後ろに三島さんがぴったりと寄り添うように座る。
「いい夜を」
エンジンが響く。
エロい夜を
叫ぶと、二人が振り向いて照れたように何か言ったけど、エンジン音でほとんど聞こえない。後ろ手に中指を立てて走り去るカップル。ありゃファックなんかじゃない、中指だけじゃなく人差し指も立てて開いた、、白いハト千羽でも追い付かない、ニカロフやシャーマンなんて綺麗にチョン切っちまう、ピースだ、って笑ってしまった。