ドシャ降りのビーフィーター

いつだったかな、木星にどうしても行きたくて色々手をつくしたんだけどうまくいかなくてそれでもまた色々やってみたんだけど結局駄目で、どうやっても行けるわけがないんだって気付いたときはニシキヘビが隙間無く壁じゅうに張り付いているのが見えた。
ちらつく前髪をかき分けてどこかのヒーローが刻み着いたオイル・ライターで外国煙草に火を付ける。ロンドンだここは。耳元でクラッシュが鳴っているから、ここはロンドンだ。梅雨か?ロンドンなのに?雨だ、小降りの雨のなか歩いてんのか止まってんのか走ってんのか眠ってんのか生きてんのか死んでんのかいまいちはっきりしないけど、目の前に座り込んだ見覚えのある女がいる。
「またやってんのかスージィ、操り人形にはならねえよ花は」
葉に結び付けたヒモがわずかに花を揺らす。
「怖いもの、死ぬのが」
ピンクの小振りの花だ、この花をオレは夢かなにかそういう曖昧なもので見たことがある、と思った。
「あやつられてあやつって、そうやって死んでいくのは怖いもの。でもあやつりたいって言う欲求がどうしようもなくなる時があるから、そのときは花に助けてもらうの」
煙草の火が消える、大降りになった雨が口の中に入った。痺れた舌が感じたのはロンドン・ドライ・ジンビーフィーターの味。ドシャ降りの、雨じゃない、ドシャ降りのビーフィーターだ。

止んでくれビーフィーター、って声喉にひっかけて血が出ても止みはしないし、このまま止まないでおくれビーフィーター、って思った瞬間ドス黒い雲青空にぶち抜かれちまうんだろう。


月間脳細胞二月号寄稿作品